感覚過敏・感覚鈍麻について
感覚過敏と感覚鈍麻
前回までに、自閉症スペクトラム障害の3つの基本的な特性を取り上げました。
今回は、最新のDSMー5において、自閉症スペクトラム障害の診断基準に含まれるようになった感覚過敏・感覚鈍麻について触れようと思います。
感覚過敏は、ウイングの3つ組には含まれていません。
(DSM-Ⅳまでは診断の基準に含まれていませんでしたが、DSM-5からは基準に含まれるようになりました。DSM-5については、今後取り上げる予定です。)
しかし、感覚過敏は、自閉症スペクトラム障害を語るうえで、非常に重要です。
なぜなら、自閉症スペクトラム障害の人は、感覚過敏・感覚鈍麻を持ち合わせていることが多いからです。
人間の感覚には、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚の五感があります。
また、それに加えて、身を守るための痛覚があります。
自閉症スペクトラム障害の人は、これらの感覚に異常を持合わせており、これらのうち、いくつかの感覚あるいはすべての感覚が敏感であることが多いのです。
また、逆に異様に鈍感であることもあります。
敏感であることを「過敏」、鈍感であることを「鈍麻」と呼びます。
痛覚以外の鈍麻は、本人にとって、あまり問題にはならないようです。
しかし、感覚の過敏は、とても苦しいものです。
では、具体的に感覚の過敏とはどういうものかを、見ていきましょう。
視覚過敏
・蛍光灯の光がまぶしい、太陽光がまぶしくて前が見えない
・道路が光ってまぶしい
・夜間、車のヘッドライトがまぶしくて、前が見えない
・文字が見えにくい
・本のページが光ったり、印刷された文字が光って見えにくい
・特定の模様を見ると、目が回ったり気分が悪くなったりする
・パソコンなどの画面がまぶしい
・人の多い場所では、視覚的情報が多すぎて目が回ってしまう、人酔いをする
など
ざっと挙げると、こんなところです。
光がまぶしい場合、サングラスを使うことで、少し楽になります。
また、釣りなどに使う偏光グラスも役に立ちます。
パソコンなどの画面が見にくいときは、ブルーライトカットレンズを使用したメガネをかけることで、刺激が少なくなります。
本などの文字が読みにくい場合、「アーレンシンドローム」を持ち合わせている場合があります。
その場合は、「アーレンレンズ」と呼ばれる特殊な色つきのレンズを使用したメガネを使うことで、文字が読みやすくなる場合もあります。
しかし、それは高価で手に入りにくいものです。
代用品として、アーレンシートと呼ばれる、特殊な色つきの透明なシートを使用することも可能です。
色つきの透明な下敷きなどで代用することも可能です。
合う色は個人個人で違いますので、いろいろ試してみるのも良いでしょう。
聴覚過敏
・特定の音をとても嫌がる(赤ん坊の泣き声が苦手など)
・嫌な音が聞こえると耳をふさぐ
・ちょっとした物音にびっくりして飛び上がる
・大声が苦手
・ザワザワした場所が苦手で、疲れ果ててしまったり、体調を崩す
・ザワザワした場所に居られなくて、逃げ出してしまう
・電車や車の走行音、モーター音を聞いていると疲れてぐったりする
・耳が聞こえすぎて、周りの音と、目の前の人の話し声とが聞き分けられない。
など
こんな感じです。
聴覚過敏の場合、普通の人にとっては何でもない音が、脳に突き刺さります。
大声を出されると、心臓が止まりそうになったり、恐怖でドキドキします。
とても怖いし、痛いです。
人の多い場所は、いわば音の洪水の状態になっています。
音の刺激はとてもつらく、耳や脳にぐさぐさと突き刺さり、脳を揺さぶり、酷い時は吐いてしまいます。
ですから、それらの攻撃的な音から、自分の身を守ることが必要です。
大人の発達障害の人で、聴覚過敏を持っている人たちは、デジタル耳栓やイヤーマフ(防音用)、ノイズキャンセリングヘッドホン、耳栓など、それぞれに合った道具を使い分けて、音の刺激から自分を守っています。
教室に居られなくて、飛び出してしまったりする子どもの場合、聴覚過敏がある場合があります。
もし、聴覚過敏の可能性がある子がいたら、大人の方が対策を考えてあげてください。
イヤーマフを使ったり、ノイズキャンセリングヘッドホンを使うことで、教室に居られるようになることもあります。
自分で自分を守る方法を、是非教えてあげてください。
それは甘えなどではなく、この社会で生きていくサバイバル・スキルを身につけることなのです。
触覚過敏
・人に触れられるのをいやがる
・電車などで、横並びに座れない
・化学繊維の服が着られない
・突然触れられるとパニックを起こす
・特定の手触り・肌触りのものを嫌う
・特定の食べ物の舌触りが苦手
など
触覚過敏があると、人に触れられる事が非常に苦痛です。
全身の毛が逆立つくらい、いやで、ぞっとします。
また、電車などの横並びの席に、知らない人と一緒に座ることも、ぞわぞわして気持ちが悪く、我慢なりません。
10センチ程度、隣の人と間隔があいていても、ダメな場合もあります。
また、化学繊維の服など、チクチクして着られなかったりします。
ハイネックの服が、首が締まる感じがして着られないこともあります。
学校の制服が着られない、という場合もあります。
私も、学校の制服(特に冬服)の襟が、首と擦れて痛く、着るのが苦痛でした。
触覚過敏で制服が着られない子に、無理に制服を着せることは、とんでもないストレスを与えてしまいます。
虐待に値する行為だと思います。
なかなか、学校の理解を得るのは難しいかもしれませんが、できるだけ無理に着せることのないよう、配慮をお願いしたいと思います。
これらの特性は、我慢できるものではないのです。
嗅覚過敏・味覚過敏
・特定の匂いを嫌がる
・特定の食べ物を嫌がる
・特定のメーカーの食べ物しか食べない
・香水などの匂いで気分が悪くなる
・教室など、食事も作業もすべて同じスペースで行うような場所では、絵の具や鉛筆、食事の匂いが混ざってしまって気分が悪くなる
など
嗅覚や味覚の過敏があると、極端な偏食になる場合があります。
普通の人には分からないような味の違いが分かってしまうため、特定のメーカーのものしか食べられなかったりします。
また、普通の人にはおいしいにおいや味に感じているものが、嗅覚・味覚過敏の人にとっては、とんでもないにおいや味に感じている場合があります。
たとえば、レタスのちょっとした苦みが、とてつもなく強い苦みに感じられるのです。
そのため、酷い偏食になってしまうのです。
また、おかずを一品ずつ食べるなど、食へのこだわりが出たりもします。
その場合、別のおかずの味が混ざってしまうのが嫌だ、ということが理由だったりします。
混ぜご飯だと、ご飯と具材の味が混ざって食べられない、ということもあるのです。
自閉症スペクトラム障害の人の偏食には、単なる好き嫌いとは違う理由があります。
匂い、味、舌触り。
色々な理由が、あるのです。
食べることを無理強いすることのないよう、お願いします。
ただ、非常に繊細な舌や嗅覚を持っている場合、料理人やソムリエには向いているかもしれません。
痛覚過敏・痛覚鈍麻
・ちょっとした怪我でも、大騒ぎして痛がる
・大人になっても、注射で涙して痛がる
・体の中のちょっとした痛みに敏感で、腹痛などが通常より強く感じられる
など
痛覚の過敏があると、このようなことが起きます。
しかし、痛覚の過敏がある場合は、身体の不調に気付きやすいので、まだよいのです。
問題は、痛覚鈍麻です。
怪我をしても気が付かない。
病気をしていても、気が付かない。
痛みに気づきにくいため、怪我をしていても、病気であっても、気づけません。
そのため、怪我や病気が重症化する場合があります。
痛覚鈍麻がある、もしくは疑われる場合、当人の様子をしっかり観察することが必要です。
また、自閉症スペクトラム障害の人は自己モニタリングがうまくできず、自分の体調を把握することが苦手です。
ですので、特に子供の場合、周囲の大人がしっかりと様子を観察することが大事です。
感覚過敏を理解することの難しさ
感覚は、人それぞれ固有のものであり、他人に体験してもらうことはできません。
ですので、その辛さを味わってもらうことは、非常に難しいことです。
理解も、なかなかしてもらえないでしょう。
ブログテーマに、今後「発達障害 感覚のこと」を設置します。
そちらに、私の感覚のことについて、詳しく書いていきす。
もうすこしわかりやす書きますので、よろしければご一読くださいませ。