自閉症スペクトラム障害のその他の特性
前回は、自閉症スペクトラム障害の3つ組以外の特性のうち、感覚過敏・鈍麻について取り上げました。
今回は、それ以外の特性について取り上げましょう。
忘れられない
自閉症スペクトラム障害は、「忘れられない障害」であるとも言われます。
どういうことかというと、今までに経験したこと、見たもの、聞いたことを、忘れることができないのです。
多数派さんは嫌なことがあっても、それを忘れてしまうことができる脳の仕組みを持っているようです。
しかし、自閉症スペクトラム障害の人は、楽しいことも、嫌なことも、すべてつぶさに覚えていることが多いです。
人によっては、まるでビデオ録画のように、鮮明な映像として、その場面が焼き付いています。
どんなに忘れたい嫌なこと、恥ずかしかったことも、どう頑張っても忘れることができないのです。
頭の中は映像のライブラリ
私の場合、記憶はすべて、図書館のように年代順に綺麗に保存されています。
そして、必要なときに、必要な情報を頭の中で検索し、取り出すことができます。
図書館では本が並んでいますが、私の頭の中にはDVDが並んでいます。
私の場合、動画での記憶ですが、人によっては静止画だったり、文字情報として保存されているようです。
その違いが、また不思議なところでもあります。
こういった、視覚的に物事を把握し、記憶できる能力を「カメラアイ」と呼びます。
カメラのように映像を写し取り、保存する。
そういう目を持っている、という意味です。
フラッシュバック・タイムスリップ
また、この「忘れられない」特性のために、自閉症スペクトラム障害の人はときどき、フラッシュバックを起こします。
それは、色や匂い、景色、感情、相手の動作、すべてがそっくりそのまま再現されるので、フラッシュバックというよりも、「タイムスリップ」と呼んだ方がイメージが近いかもしれません。
楽しかった場面にタイプスリップすると、ご機嫌でニコニコしています。
何もないのに突然にやにやと笑いだす時には、タイムスリップをしているのかもしれません。
嫌だった、苦痛だった場面にタイムスリップすると、そのときの感情が再生されるため、かんしゃくを起したり、パニックになったりします。
周囲から見れば、意味もなく突然パニックを起こしたように見えますが、実はタイムスリップが起きていることもあるのです。
このタイムスリップ現象は、自分でコントロールをすることができません。
ある事柄、ものがきっかけとなって、どんどんその当時の状況がよみがえってきます。
止めようとしても、なかなか止められません。
また、一つの嫌なことを思い出したがために、他の嫌な記憶まで、芋づる式に掘り起こされ、より混乱してしまうことも多々あります。
それを止めたい時、私は手で頭を叩きます。
外部から物理的な刺激(この場合は痛み)を与えることで、その忌々しいタイムスリップ現象から、現実に戻ってくることができるからです。
頭を叩いたり、身体を叩いたりしている自閉っ子が近くにいたら、もしかしたらタイムスリップしてしまっているのかもしれない、という可能性も考えてみてください。
オール・オア・ナッシングの思考
自閉症スペクトラム障害の人は、大抵、物事の白黒をはっきりつけたがります。
グレーゾーンというものが、苦手なのです。
というより、理解できないのです。
もしくは、頭では理解しても、感覚的に納得がいかないのです。
〇かもしれない、△かもしれない、という宙ぶらりんな状態を、とても気持ち悪く感じます。
善悪の判断も、かなりしっかりしたがります。
〇〇はいいことだ。
××は悪いことだ。
ここまでは、納得できます。
しかし、世の中にはそれらの隙間にあるような、判断の付かないこともあります。
△△は、どちらともいえない。
こんな状況になったら、イライラしてパニックになってしまいます。
足元の地面が、スライムでできているように、ぐらぐらして、立場が分からなくなってしまう感じです。
「〇〇なら、□□であるべきだ」という思考が頭を占領し、そこから抜け出すことができなくなってしまうこともあります。
「まぁ、いいか」という思考が、難しいのです。
これも、生きにくい原因の一つでしょう。
視覚による思考
自閉症スペクトラム障害の人は、視覚でものを考えるタイプの人が多いと言われています。
どういうことかというと、目から情報を仕入れ。
何かを考えるときは、頭の中で映像を描き出して考えている、ということです。
その代り、聴覚からの入力や、言語での思考が苦手です。
そのため、何かものごとを伝えるときは、目で見える形で示してもらえると理解が早いのです。
視覚思考タイプの人が優勢ではありますが、中には聴覚思考タイプの人もいます。
また、視覚思考も聴覚思考も苦手で、嗅覚思考タイプの人もいます。
それぞれ、得意な理解方法があります。
能力の極端な凸凹
自閉症スペクトラム障害の人が、知能テストを受けると、様々な能力の凸凹が大きいことを指摘されます。
健常者は、それらの能力は、グラフにすると大抵なだらかな凸凹になります。
自閉症スペクトラム障害の人の場合、山と谷が大きな凸凹のグラフになります。
これは、できることと出来ないことに大きな差がある、ということです。
ですから、周りから見ると、「あんな難しいことができるのに、どうしてこんな簡単なことができないんだ!なまけてる!」と思われることもしばしば。
しかし、本人は怠けてなどいないのです。
能力に大きな凸凹があるため、できることはとてもできるけれど、苦手なことはとことん苦手なのです。
それを補う工夫が、必要です。
過集中
過集中とは、極端に一つの物事に没頭してしまう状態です。
数時間の過集中から、数日にわたる過集中もあります。
研究者が、寝食も忘れ研究に没頭する。
そういうシーンを、ドラマなどで見たことがあるかもしれません。
過集中は、まさにそのような状態です。
その状態の時に、声をかけても、本人の耳にはなかなか声が届きません。
周りの状況に、注意を払うことができないのです。
自閉症スペクトラム障害の特性として、一つのことにしか注意・関心を払えない、というものがあります。
同時並行する作業が苦手なのです。
そのため、集中しているときは、周りからの刺激が遮断され、まったく気づかないのです。
けっして、わざと無視しているわけではありません。
また、過集中の時に作業を邪魔されると、怒ることもあります。
調子が乗っているときに邪魔をされて、イライラするのです。
だからといって、ずっと同じ作業を続けていると、どうしても疲労が蓄積します。
そのため、本人や周りの人が工夫し、過集中を防ぐことが大事です。
予定の変更が苦手
自閉症スペクトラム障害の人は、予定が未定であること、予定が変更されることが苦手です。
これから先に何が起こるのか、不確定なことが、不安だからです。
今から、○○をします。
それが終わったら、××をします。
その次は、△△をします。
といったように、計画を全て教えてもらえると、安心します。
しかし、それらの予定が急に変更になった時は、自分の中で割り振っていた時間が崩され、世界が崩壊するような感覚に襲われます。
たまらなくイライラして、かんしゃくを起こしてしまいます。
どうしても変更の必要があるときは、早めに伝えてもらえると、心を落ち着かせる対応ができ、イライラも少なくて済みます。
自閉症スペクトラム障害、その他の特性も人それぞれ
よく言われる特性について、挙げてみました。
これら以外にも、様々な特性があります。
また、個人個人で、特性の強さや内容は、まったく違います。
対応してくださる方は、自閉症スペクトラム障害の当事者の様子をよく観察して、その人に合った対応をお願いします。